「あれ、こっちに行ったと思ったんだけど…」
人はアトリエを見回した後出て行ったようだった。
『あとりえ?』
『なんだろうな』
とりあえず絵の具の入った箱から出て部屋を見回す。青空と草原の描かれたキャンバスが一、二枚。濁った空のものも二枚ほど。乱雑に散らばっていた。林檎は鼻をひくつかせてキャンバスをつっついている。
『あのひと、こんなとこにすんでるのかな』
『流石にないんじゃないか?ここじゃ何も手に入らないぞ、価値あるものもなさそうだし』
『なにも、てにはいらないのにいきてられるの?』
『さあ…人間のことはよくわからん』
改めてアトリエ内を見回してみると、かなり蜘蛛の巣が張られていた。
『…あの人間、ここを大事にしてるのかしてないのか分からんな』
食べようとしているのか、林檎が絵の具のチューブを噛みだしたので、鼻で突いてやめさせる。
『もどる?』
『そうだな…ここにずっといるのも居心地が悪いし出ようか』