スマートウォッチなど、ウェアラブルが当たり前の世のなかになって久しい。
近い将来、デバイスは体内埋め込み式が主流になるのだとか。
などとのんきにかまえていたらなんということだ。すでに実用化されているのであった。
つい先ほどのできごと。イヤホンも何もしていない、前歯のない、ワンカップを片手に持った老紳士が一人で大声で話しながら、駅の改札とイルミネーションで飾られたロータリーを行ったり来たりしていた。
便利だからついやっちゃうんだろうけど、マナーは大事だよなぁ。
などと考えつつ、小腹が減ったのでコンビニでフランクフルトを買い、食べながら歩いていると、角からナイフを持った男が現れた。
「あ、お父さん」
「おかえり」
残りのひとかけらをのみ込み、「会社は?」とわたしはきいた。
「辞めた」
「そうなんだ。お母さん、家にいるの?」
「断食修行に出た」
「そんな……食欲の秋なのに」
「一二月は秋じゃない」
「もうすぐクリスマスだね」
「クリスマスはどうするつもりだ」
「今年もあなたと過ごしたい」
「カレン、もうこんな関係は終わりにしよう」
そう言ってお父さんはわたしを刺した。意識がなくなる直前、フランクフルトの串が地面に落ちる音をきいた。