ダンボールを開けると、ハリーポッターに出てくるような杖が入っていた。
親の反対を押し切り、女優を目指して上京したものの、バイトをクビになって、お金も食料も底をつき、途方にくれていたところに一筋の光。数年ぶりにお婆ちゃんから電話があったので、親に内緒でお米を送ってくれるよう頼んだのだが、ダンボールには木の杖。
わたしはうなだれ、肩を落とした。
お婆ちゃんはもう、ぼけてしまったのか。
女が手っ取り早く稼げる方法といえば、キャバクラ、風俗、立ちんぼ。
こうやって落ちてゆくのだ。
お婆ちゃんがぼけてしまったことによるショックと落ちぶれたダブルパンチで涙が出た。
こんなふうにオーディションでも上手く泣ければ合格してたかもしれないなあ。
お腹減ったなあ。
などと考えながら再びダンボールに目を向ける。
おや。蓋の内側に封筒がへばりついているではないか。
急いで中身を確認すると、やったあ。三万円入ってた。
そうかそうか、これは孫を喜ばせるためのお婆ちゃんジョークだったのだ。そしてわたしはこの三万円で当座をしのいでオーディションを受け、泣きの演技が素晴らしいと絶賛されてヒロインに選ばれ、めでたしめでたし。
あ、手紙も入ってた。
なっちゃんへ
この杖は先祖代々伝わる宝物です。飯杖といって、神に選ばれた者だけが使えるそうです。お茶碗に向けてひと振りすれば、あら不思議。ほかほかごはんが現れるのだとか。どうぞ試してみてください。じゃあまたね。
なんとなんと、わたしはその神に選ばれた者だった。なのでもう、ごはんには困らない。
オーディションでは、まだ一度も選ばれてないけど。
ごはんの上でひと振りすると、ふりかけの出てくるふりかけ杖を使える男の人がいたら結婚しようかな、と最近思っています。