妹の手のひらから転がり落ち、湖につかった沼貝たちは息を吹き返した。
「ほらね。元気になったでしょう」と得意げに妹は言ったが、オキクルミには、とくに何か変わったようには感じられなかった。
しばらくして、自分たちを虐待したのはサマユンクルの妹、助けてくれたのはオキクルミの妹だと知った沼貝たちはその年、サマユンクルの妹の村は凶作にして、オキクルミの妹の村には豊作をもたらした。
これはあのときの貝の力によるものだと気づいたサマユンクルの妹の村の人たちとオキクルミの妹の村の人たちは、畏怖の念から沼貝の殻を加工し、あわ、ひえ、もちきびの穂を摘む農具とした。
以来、どこの村でも収穫には、沼貝の殻を使うようになった。
収穫をコントロールする能力があるのに自力で湖に移動する能力はないなんておかしくないかと突っ込みたくなるだろうが、この話で本当に伝えたいのは、すべては連鎖していて、ちっぽけな貝といえども雑に扱ったら報復を受け、逆にていねいに扱えば恵みが与えられるということなのである。だからこれでいいのだ。
ところでこのエピソードは、知里幸惠(ちりゆきえ)のアイヌ神謡集をもとにしているのだが、地域によってサマユンクル側が助けるバージョンがあることをつけ加えておく。