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コールセンター

 文明が発達し、清潔文化が行きすぎると人間は、有機的なものを気持ち悪いと感じるようになる。
 近年、その度合いはいよいよ激しくなり、若者は美を二次元── マンガやアニメ、ゲームなどのキャラクター──に求めるようになった。
 パンデミック後のライフスタイルからのフィードバックも手伝って、極端に潔癖症となった人々は、人工物に近いものほど美しいととらえるようになり、あげく、美は無機的であり、醜は有機的(少し前に流行ったSF映画のセットのような有機的デザインは、無機物を有機に擬態したもの、あくまでも、的、なのであって有機そのものではない)、美は善、醜は悪という考えかたがスタンダードとなった。
 当然、恋愛離れも増加傾向にある。恋愛は基本的に、生理現象に基づく有機的行為だが、しなくてもいいものだからだ。    
 このままいくと人類は最終的に、排泄を行うことにも嫌悪感をおぼえ、有機体であることに嫌気がさし、肉体を捨て、脳を人工物に移植するようになるだろう。  
 というエッセイをSNSにアップしてから一時間後、コメント欄を見たら、なんと、すでに脳を移植する時代は到来しているとのこと。URLをクリックすると、ちゃんとした国の機関らしい。早速チャットで質問する。
費用はどれくらいですか?
国の財源でまかなわれるので、いっさいかかりません。  
どのような手術をするのですか?  
手術は行いません。脳の記憶をコンピュータに移し替えるだけです。
ということは単にコピーを作成するだけなんですね。ありがとうございました。
 チャットを終えようとしたところに、電話がかかってきた。非通知は拒否されるはずなのに。反射的に出てしまう。

 ──もしもし。
 ──こちらは厚生労働省記憶管理センターです。コピーを作成するだけと解釈されたようですが、それは認識不足です。コピーではありません。
 ──どう考えてもコピーでしょう。  
 ──コピーかどうかは視点の問題です。オリジナルが消滅すれば、もはやコピーではありません。  ──それはオリジナルであるわたしに死ねということですか?  
 ──いいじゃないですか。気持ち悪いんでしょう。いまの自分が。

 移植されたいまも、コールセンターの仕事のかたわら、このようにエッセイの投稿をせっせと続けている。

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