教室の窓ガラスが、内側から爆ぜ砕ける。
終業式後のホームルームの時間、教室の1つが『爆発』した。その原因は、教室の中央で悠然と周囲を見回していた。
背丈は決して高くは無く、およそ1.6m程度。概ね少女のように見える『それ』は、しかし明らかに人外の存在であった。体表は暗紫色に染まり、両の側頭部からは黒く長い捻じれた角が生えている。腰から伸びる蝙蝠のそれのような皮膜の翼のためか、足下は僅かに床を離れ、ふよふよと上下している。鋼線のように細い尾をふわふわと振り回しながら、『それ』は楽しそうに周囲で怯えている生徒たちを品定めするように眺めていた。
「どーれーにーしーよーおーかーなー……」
『それ』が周りの生徒を1人1人指差しながら、歌うように呟く。
「……きーめた」
少女は宙を泳ぐように、1人の女子生徒に近付いた。右手の爪が長く鋭く変形し、女子生徒の喉元に触れる。
爪の先端が皮膚を突き破る直前、『それ』の鼻先に雪の結晶が舞い落ちた。
「にゃっ……?」
『それ』が周囲を見回すと、教室の入口に一人の少女が立っていた。
“白銀”という語を擬人化したかのようなその少女は、『それ』に向かって手を振ってみせた。
「はろー、怪人」
「……? はろぉー?」
『それ』も手を振り返す。
「あんた、名前は?」
「“カミラ”」
「へぇ。それじゃ、さよならカミラ」
少女が背中に隠していた特大筆を振るうと、白い流体が斬撃となってカミラに向かって行った。カミラはそれを回避し、一瞬で距離を詰める。
「……なまえは?」
「怪人に名乗る名前は持ち合わせてなくてね。あんたを殺す“力”の名だけ覚えて逝け」
少女が特大筆を振るうと、周囲に吹雪が舞い、カミラの視界を封じた。
「この力の名は……【雪城】」