カミラが立ち去った後も呆然としていた、襲撃を受けた女子生徒の頭に、墨汁の塊のような黒い流体が飛び乗った。
「!?」
『ふむ……怪人がわざわざ狙ったのだから何かあるのではと思ったけど……極めて一般的な人間だな?』
脳内に直接響いてきたその声を、少女は流体のものだと直感した。
『おっと、挨拶が遅れたね。こんにちは、初めまして、ヒトエちゃん。ワタシのことは“ケリ”とでも呼んでくれ』
「なんで名前を!? と、とにかく、そのケリが一体、何の用……?」
『何があったか知らないが、どうも君には素質があるようだ。君には“怪人”を引き寄せる才能がある』
「え、さ、才能? でも、私、怪人なんて実物は今日初めて見たくらいだし、そんなの……」
『間違いなく、その才は「ある」。そんな君に、ワタシからプレゼントだ』
「ぷ、プレ……?」
『この“力”を受け入れれば、君は怪人たちから身を守れる。便利だろう?』
「それはたしかに…………?」
『君はただ、頷くだけで良い。恐れず受け入れろ。大丈夫、使い方は君の身体が覚えているから』
ケリの言葉に、少女ヒトエは恐る恐る頷いた。その瞬間、ケリの身体が弾け、流体が彼女の全身を包み込む。流体が彼女から離れ、元の塊に戻ると、ヒトエは元の体勢のまま、紅色のアーマーを纏っていた。
「な、何これ、鎧!?」
『そう出力されたのか。その力の名は【閑々子】。さぁ、行っておいで。まずは初陣に、君の仲間を救うんだ』
「え、わ、分かっぬまぁっ!?」
立ち上がり、駆け出そうとして、ヒトエは大きく姿勢を崩した。後方へと倒れる途中で不自然に動きが止まる。
「え、な、何なに」
ヒトエがどうにか目だけを動かして探ると、彼女のツインテールを覆うアーマーの先端が床に突き刺さっている。
「髪が刺さってる⁉ ちょ、学校壊しちゃったんだけど⁉」
『焦らないで。使い方は君自身がよく知っているはずだ。落ち着いて、力に身を任せて』
「うぅー……ていっ!」
ツインテールの装甲に手をかけ、姿勢を直す。その部分のアーマーが変形・パージし、彼女の手の中には1組の双剣が残った。
「お、おぉ……」
『もう使いこなせるね? それじゃ、行ってらっしゃい』