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Specter children:人形遣いと水潜り その②

明くる早朝、午前5時前。既に明るくなっていた空の下、村に住む少女が一人のんびりとした足取りで散歩していた。
集落の総面積のうち半分ほどを占める畑では、何人かの老人が農作業に従事している。彼らに軽く会釈しながら、少女は慣れ切った経路を迷いなく突き進む。
少女は集落範囲を外れ、獣道を抜け、ごつごつとした礫の転がる河原に下りた。
水際まで歩み寄り、瞑目して一つ深呼吸する。朝のまだ涼しい空気と流水の清浄な匂いで肺を満たし、再び目を開く。
「おはよーございまーすっ!」
口元に手でメガホンの形を作り、水面に向けて呼びかける。それに応えるように浮き上がる波紋や泡沫に、少女の顔は綻んだ。
次の呼びかけをどうしようかと考えていたその時、少女の背後でガサリ、と枝葉を折るような音が立った。
「うえっ⁉」
咄嗟に振り返り、ガサガサと動いている茂みを恐る恐る覗き込むと、ひと際大きな音と共に、その中から一人の少女が立ち上がった。
「うげ……屋根だけじゃなく落下対策も用意しとくべきだったな……寝相は良い方だったんだけど……」
「だ、誰?」
木の上から落下してきたと思しき冬用制服の少女はそう尋ねられ、ようやく顔を上げた。
「うおっ、第一村人。ども、豊原です」
「豊原サン……私は水潜です」
「ミクグリ=サン? あぁうんよろしく」
「……ねぇ豊原さん」
「何?」
「肩にイモムシ乗ってる」
「えっ嘘⁉」
水潜と名乗った少女、水潜冰華が指差した左肩を、豊原と名乗った少女、豊原蒼依は慌てて払った。

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  • 第一村人発見
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