部屋の外から、冰華の母親が呼びかける。曰く、用事があって家を出るため、留守番を頼むとのこと。
「りょーかい」
冰華が答えると足音が部屋から遠ざかり、やや時間をおいて玄関が開き、また閉じた。
「……じゃ、私も鬼探しに行くから」
「あ、待って。私も一緒に行く!」
蒼依に続いて立ち上がった冰華の頭に、蒼依の軽いチョップが刺さった。
「痛いっ」
「さっき留守番頼まれてたでしょうが。親の言うことはちゃんと聞きなさいな。せっかくいい親御さんなんだから」
「でも……蒼依ちゃんのこと手伝いたいし……」
「危ないんだよ? あんまり無理しないで」
「危ないのは蒼依ちゃんも一緒じゃん」
「いやまぁほら、私は慣れてるから」
「それなら私はこの辺一帯に慣れてるよ? 土地勘!」
「……なんでそんなについて来たがるの」
「えー……お友達だから? あと面白そうだし」
「おいコラ冰華ちゃん」
「それに! 私だってそんなに弱くないんだよ!」
両腕で力こぶを作るジェスチャーをする冰華に、蒼依は溜め息を吐いた。
「……冰華ちゃんのお母さん、どれくらいで帰ってくると思う?」
「1時間くらいかな?」
「じゃ、その後出ようか。それまで、この村と周りのこと教えてよ」
「やったっ。私に分かることならなんでも聞いて!」
「うん。頼りにしてるよ」
「あっ、一応今のうちに番号交換しておこ? 何かあった時に便利だし」
冰華がスマートフォンを顔の前で軽く振った。
「スマホ持ってたんだ……」
「さすがに田舎舐めないで?」