『クカカッ……キ、キキッ……知ってるんだゼェ? 盗み聞き、してたカラ……オマエ、“喜怒哀楽”を人形にして使うンダ』
鬼は長い前髪に隠れた口を歪めながら言う。
(……冰華ちゃん家で話してたの、聞かれてたのか。窓の下にでもいたのか? まったく気付かなかった……)
『ソレに、見たゾ……オマエの“武器”、人形を3体混ぜテ使うンダ。クカカッ』
「……それが何?」
拳を握り締めたまま蒼依が聞き返すと、鬼はケタケタと笑いながら言葉を続けた。
『カカカッ! 簡単な引き算ダ! 人間は感情ゼンブを捨てル事なんか出来ネェ! ソンナ事したら、感情ある生物は抜ケ殻になっちマウからナァ! ツマリ!』
鬼が右手の人差し指を立て、蒼依に突き付ける。
『オマエが同時に扱えるノハ“3体”! 3体マトめた“武器”は投げ捨てた! もう武器ハ無ェノダ!』
嘲るように笑う鬼に対して、蒼依の表情は飽くまで冷淡だった。
何も答えず駆け出し、跳躍して勢いのままに膝蹴りを鬼の鳩尾にめり込ませる。
『ゴブッ……⁉』
揺らいだ鬼の両肩を掴まえ、蒼依は更に膝蹴りを続ける。3度、4度、5度と、ひたすら膝蹴りを続けていた蒼依だったが、鬼が上半身と両腕を振り回したことで、飛び退くように距離を取り直した。
『効かネェんだヨ!』
反撃しようと、鬼が両腕を振り上げて一歩踏み出す。次の瞬間、鬼は『後方に向けて』跳躍した。その直後、1台のスクーター(原動機付自転車)が蒼依と鬼の中間を駆け抜けた。
(バイク……?)
蒼依が原付に気を取られていると、数m先の木の幹に車体を擦らせながら停止した機体から、冰華が飛び降りてきた。
「蒼依ちゃん! 助けに来たよ!」
「冰華ちゃん。原付免許持ってたんだ」
「うん、家まで取りに行ってて遅くなった。でも絶対轢けると思ったのに……」
「流石にエンジン音でバレるんじゃ」
「そっかぁ」
二人が鬼に意識を向けると、鬼もまた原付に気を取られ脇見をしていた。