深夜の森の中を、蒼依と冰華の二人は周囲の気配を警戒しながら慎重に進んでいた。
「っとと……」
「蒼依ちゃん大丈夫?」
「うん」
足元の小さな凹凸に足を取られて転びそうになった蒼依を、冰華が支える。鬼を逃がしてから、このやり取りは既に5度目だった。
「どしたの蒼依ちゃん。疲れた? ずっと戦ってくれてたもんね」
「いや、それは大丈夫。ちょっと注意力が散漫になってて」
「暗いんだから気を付けなきゃ」
「いやぁ……さっき、人形たちを先に森に突っ込ませたじゃん?」
「うん」
「私、あれと感覚共有できんのよ……人形たちの見聞きしてるものが、ぼんやりと分かるの。『ぼんやりと』ね」
「へー?」
「ただ……あまりにもぼんやり過ぎて、めちゃくちゃ意識集中させないと分からないんだよね。だからちょっと、足元に注意払う余裕が……」
「おんぶしたげよっか?」
「重いよ?」
「大丈夫、私の腕は“河童”なんだから!」
「おんぶって腕だけでするものじゃないじゃん」
「良いから! 蒼依ちゃんは鬼見つけるのに集中して!」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
蒼依が恐る恐る、冰華の背中に覆い被さる。
「……重い」
「だろうね」
冰華がよたよたと歩き出して1分も経たないうちに、背中の蒼依が声を上げた。
「止まって」
「何?」
「来る」