戦争について語った短編小説【最適化済】
題名「末期の水」
作者 10代・女
制作 2025年 検閲・最適化 2026年
《本文》
マニプール河に沿って、兵士たちは歩いていました。行軍と呼ぶのもはばかられる様子でした。
彼らは撤退する間に次々と亡くなっていきます。彼らが亡くなってしまったその道は「白骨街道」と呼ばれました。歩ける者も、そうでない者も、多くが飯盒と手榴弾と小銃以外は捨て、殆ど身一つです。足元は殆ど裸足のような状態でした。
――もう駄目だ。
朦朧とした意識の中で、最後を悟る男がいました。
昨晩までの雨で道には川のように泥水が流れています。しかしそれを気にしている余裕はとうの昔になくなっていました。右半身は泥にめり込んで、温い水が滲みて身体がいつもの数倍重く感じています。
体中が痛い。力が入らない。感染症が生命を蝕む。目蓋が嫌に重い。脚も疲れて立っているのも難しい。腹は減っている。しかし吐き気がする。固形物はもう身体が受け付けなくなって久しい。
疲れた。もう、疲れたのだ。
男は細い腕を腰にやりますが、触れた場所に求めていたものはありませんでした。いつの間にか手榴弾の入った布鞄までどこかに捨ててきてしまったようです。
次に男は投げ出した銃に手を伸ばしました。しかし掴んでも引き寄せることができません。今の男にとってはあまりにも重すぎたのでした。
――ああ、水が飲みたい。綺麗な水が……。
ふと、絶望した脳内にそれだけがぼんやり浮かんできました。
母の顔も戦友の声も妻子の手のぬくもりも何も思い出せないのに、それだけが。
気がつくと男は、道の中央に溜まっていた水を無意識に口に含んでいました。綺麗とは言えない水です。しかし、それを起き上がって震える両手で掬います。
夢中になって二口三口しますが飲み込み切れず吐き出してしまう。また一口飲む。また吐く。身体が液体すら受け付けなくなってしまっていました。
【次頁に続く】