「ちょ、ちょっとミラキュラス!」
「なにやってるのよ……」とウェスト管理官は転んでしまったミラに対してツカツカと歩み寄る。ミラは「ご、ごめん……」と苦笑いするが、ウェスト管理官は「謝るならぶつかった方にしなさい」とミラの腕を引っ張り立たせた。そのときになって、初めてミラはぶつかった相手を見る。
その人物の姿は、どこか奇妙なものだった。
というのも、薄い桃色の長髪の一部を桜の形をした髪飾りで結わいており、桜色の官帽を被って帽子と同色の軍服のようなワンピースを着た、随分と華のある容貌をしていたからだ。ついでに背丈もそれなりにある上、革と思しき素材でできたなにかのケースを持っていて、このヘスペリデスの街中ではミラと同じくらい目立っていた。
「……」
ミラとぶつかった桃色の髪の人物はすでに立ち上がっており、ワンピースの裾を、汚れを落とすように少しはたいている。ミラは相手の華やかな容姿にわずかな間見とれてしまったが、相手がその視線に気づいて訝しげな目を向けたことでハッと我に返った。
「あっ、さっきはぶつかってごめんなさい」
「どこか痛くなかった?」とミラは付け足すが、相手は「別に」と目を逸らす。
「そっか」
「ならよかった」とミラは言いかけるが、ミラが言い終える前に相手はツカツカと先ほど進んでいた方向に向けて歩き出した。「あっ、ちょっと……」とミラはつい呼び止めようとするが、早歩きする相手はあっという間に通りの横の細い道に入って見えなくなってしまった。ミラはポカンとした様子で言葉を失う。