ラボの5階にはリニアーワルツのための部屋が15室ほど並んでおり、環状の建物の中庭側に廊下がある。中庭はガラスの屋根がついていて、地球から持ち込んだ常緑樹や草本が植えてある。しかしどこからか異界の植物の種子が混入してしまったらしく、常緑樹には白い花の咲く蔦が絡まり、ガラスにも張り付いた跡がある。その上にまた新しい蔦が這っている。庭師が週に2回整えに来るが、どう見ても追いついていなかった。
毎日リニアーワルツの問診でこの場所にはやってくるので、最初こそ感じていた情緒など今はない。それに関して思うこともなくなってしまった。
今日はいつもの問診とは違う目的でやってきた。
3年間も使い物にならないで、ラボの荷物になっていたリニアーワルツの処分を明日に控えているので、様子を見にきたのである。
07号室の前で私は足を止め、白衣のポケットからカードキーを取り出す。パスワードを入れてカードキーを機械にかざすと、小気味良い解錠音がした。扉を開けて向かって右を見ると、2段ベッドの上段に膝を抱えて座る少女の姿が確認できた。処分のことは昨日か一昨日に通告済みだが、特に変わった様子はなかった。少女はこちらを一瞥もしない。絹の天蓋のような色素の薄い髪の間から除く瞳は、どこか、明後日の方を見据えている。そして左の薬指には、リニアーワルツとしての役割を放棄したにも関わらず指輪を嵌めている。
「明日が処分の日だけど、話しておきたいことはあるかね」
私が話しかけると、少女はゆっくりと顔を上げた。そしてその大きな瞳を細めて微笑む。やつれたような雰囲気を纏うその微笑みは、見た目年齢のわりに妖艶に見えた。
「別にないわ」