閑話休題、職員に水を差された若い二人は、明らかに不満げな顔をした。ファナはそのあと、アッドの首にとりついて、片方の手で切断された腕の断面を撫でて、艶笑する。
「分かったわ、ファナがやってあげる。いいでしょ?」
許可を求める目は愛する少年の目の奥をのぞき込む。本来職員の方に許可を取らないといけないのにも関わらず、だ。
「そうだなあ、一番俺のことよく分かってんのはファナだもんなあ」
アッドも、彼女の制御を買って出ているなら、勝手なことを言い出すべきではないが……聡明でいい子のアッド君はいったいどこに行ってしまったのだろうか。
「ちょっとなんでそうなるのよ!」案の定職員も制止しようとするが、一度決めると2人とも止められない。
「ちょ、待ちなさいって!」
「手術寝台借りるわよ」
「すいません、すぐなんで入ってこないでくださいね」
職員の命令も愛の前では無力であるようだ、2人はさっさと手術室に入っていった。
「……なーにが『すぐなんで』よ」
職員は呆れて独りごちる。
……純粋に愛し合う2人は本当に微笑ましい。その幼く、同時に成熟した、否、熟れきって腐りかけた愛が、彼らを、ラボとこの世に繋ぎとめる数少ない手段であるのだと思うと、それが果たして純粋であるかは疑わざるを得ないが、最終的にはどうでもいいことだ。どんなに互いが傷つき、地獄の底でもがき苦しんでいたとしても、かわいそうに、とは思っても、大した問題ではない。
それがリニアーワルツの背負わされた無常さと、世の中の冷酷さなのだった。
【第一部 終】