数十万や数百万では足りないほど大量の粒子を、樹木組織を削り飛ばせるほどの高速で回転させ続ける。その暴挙は、人間一人のキャパシティには余りある情報量だった。
「ッ……ぐ、ッァ……、……!」
脳の酷使と精神への重圧に苦悶する加奈の鼻から、赤い液体が垂れ落ちる。
(駄目だ、まだ止まるな、まだ残ってんだろ身体がァ……! 今止めたらそこから再生する! 削りきれ、殺しきれ、最期の一片まで!)
呼吸は乱れ、心拍数は張り裂けんばかりに上昇し、目の前に火花が散る。
「づ……ッ……?」
一瞬、意識が途切れる。無数の砂粒が制御を逃れ、重力に引かれて降り注ぐ。
(駄目だ、駄目だ、回れ脳味噌、あたしが殺らなきゃまず後輩が死ぬ! ここが崩れりゃもっと死ぬ! 動かせ、早く、再開し、ろ……)
「もう終わりだ、相棒」
「……ぁぇ?」
恐らく気を失っていたのは数瞬であったのだろうが、気が付くと陸斗が後ろから身体を支えていた。ぼやける視界の中、敵の姿を探すと、数m先で“ハグレイ”に抱き着く“ドッペルゲンガー”の姿があった。分身もまた砂嵐に削り飛ばされ、衣装は破れ全身を血に染めており、片脚も千切れ落ちている。
「あとは“ドッペルゲンガー”が、消し飛ばす!」
分身の体表に発生する無数のブロックノイズが、“ハグレイ”を一口ずつ飲み込み、消失させていく。“ハグレイ”は両腕を再生させて抵抗しようと藻掻くが、その動作の一つ一つが削り飛ばされていく。やがて体幹部は完全に消滅し、残った両腕も投げ上げられた後、振るわれた掌に走るノイズに一片残さず削ぎ消された。
「……おわった?」
「ああ、終わりだ」
「…………そ」
加奈は消え入るように呟くと、陸斗の腕に完全に体重を預けた。
「重い」
「…………」
「……おい? “騒霊”?」
「だっこ」
「幼児退行してんじゃねえか」
「うっさぃ。めんどぃ。あたまきかない。はこんで」
「……車呼ぶから」
「やだ。『ててまるくん』とりいく」
「……俺が行くからお前はさっさと帰れ。コインロッカーの鍵寄越せ」
「ん」
ポーチから取り出した鍵を陸斗に押し付けると、加奈はそのまま意識を手放した。