「人生に疲れたよ」加藤はシューアイスをモゴモゴ咀嚼しながらそんなことを語る。僕は、教室の隅から、そんなことをシューアイス食べながら語るな、といきどおる。シューアイスだぞシューアイス。廃れた校舎の夕方に似つかわしくない天使の食物。神の慈悲、感涙すべき僥倖、なんと言う幸せ。夕日に照らされ赤茶けたロッカーから体操着の腐敗臭、黒板の周囲にチョークの粉末等々が漂う中で鬱屈した青春の唯一の救い、シューアイス。僕らは間違っていた。人生に疲れているのではない。シューアイスのない人生に絶望するのだ、とかの有名なニーチェでさえ言ったかも知れない、あの時代にシューアイスさえあれば。加藤は相変わらずふて腐れながらシューアイスを頬張っている。もう限界である。僕は、シューアイスの何たるかを理解しない加藤に天誅を下すべく決意した。僕は目の前の女子共を蹴散らし行く手を阻む体育会系男子共をちぎるように投げ飛ばす。加藤はおののく。シューアイスを食べる手を止めた。僕は、机の上に置かれたシューアイスに目をやり、融けないで、と心の中で祈る。僕が助けるまで、どうか。加藤は遂に立ち上がり、早速シューアイスに対してのあること無いこと罵詈雑言、誹謗中傷を繰り返す。僕は聞く耳を持たない。仇を取ると決意したのだ。見ていてくれ、このあけすけな青春に、シューアイスの花が咲く。