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鬼ノ業~序章(弐拾参)

その日の夜、朔は何となく目が覚めた。勿論、横では大きないびきをかいておじさんが眠っている。そしてもう一方横。
「__薊!?」
綺麗にたたまれた布団。
朔は落ち着かずに、そのまま外へ出る。行くあてなど何処にもないが、兎に角走った。すると、大きな一つの岩の上に薊が座っていた。
たちまち安堵する朔。何故こんなにも気を張っていたのかが不思議なくらいに。
「薊…?」
呼び掛けると、振り向いた。あでやかに微笑う。
「気付かなかった。…ついてきたの、兄様?悪趣味ね。」
ついていくも何も、出たことにすら気がつかなかったのに。
「どうしてこんな所に?」
「此方へおいでよ、兄様。」
とりあえず、朔は薊の横に座った。
今日は満月だ。
「二人でこうして話すなんて、何年ぶりだっけ?」
「うん、おじさんに手かかって、こんな時間無かったね。」
顔を見合わせて笑う。とても仲のいい兄妹だ。
しかし朔は、中々切り出せない。あの日の薊の台詞について。まだ、人間を消したいと望んでいるのだろうか。そして、薊に真実を告げるべきか。母が犯人で間違いなかったと。…それを知った薊はどうなる?正気でいられるだろうか。
薊の、月を見る横顔は、何より綺麗だった。
「薊、帰ろう。」
結局朔は、何も言わなかった。いや、言えなかった。その横顔に、帰ろうと、そう言うことしか出来なかった。

  • 今回本当に長くてすみません…。
  • 明日から休みなので(笑)
  • 感想・アドバイス募集中です。待ってます‼
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  • 有栖川有栖の書くミステリのような、哀しく美しい夜のお話。これ今まででいちばん好きかも。
    ここ何日か、月光ゲーム〜孤島パズルを読み返している所為かも知れませんけど(笑)

  • いつもありがとうございます!
    私にとって、最上級の誉め言葉です(*v.v)とても励みになります。
    有栖川有栖はまだちゃんと読んだことがないので、今度読んでみようと思いますが、作家さんに影響されることって少なくないです。もっと自分の力で書くことにこだわらなきゃいけないと日々思います(笑)