うだるような暑さも少しずつ立ち消え、気が付くと心地よい涼風が辺りを覆っている
そして、うるさいほど生を謳歌していた蝉の声も、いつの間にかなくなり、そこにはただ、残酷なほどの静寂があった
「夏が終わったんだ」と私は悟った
ぽっかりと空いた胸に、ただひたすら空虚な気持ちが注ぎ込まれる
「夏よ、行かないで」
口から零れ落ちた言葉さえも、巡りめぐる季節のように、残屑も残さず、ただ目の前に暴力的なほどに広がる虚空へ消えていった
「行かないで」
繰り返しても、夏は無慈悲に去っていく
それは、命のように儚いものだった
いつか、愛する人の死に際して同じ言葉を紡ぐのだろうか、とふと思い苦笑した夏の夜の1ページ