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鬼ノ業~本章(拾弐)

「見ただけで分かるものか?」
「眼が違う。」
蒼は、勿論分からなかった。鬼と人間は、見た目による違いは無いに等しい。
しかし、蒼はそんな自分の勘よりも、旧友への信頼の方が厚かった。だから、朔の言っていることの方を信じた。
「そうか。…しかし、それがあることで何か問題は在るのか?」
この時代において、鬼と人間の共存は当たり前だった。だから、たとえ岡っ引きが人間だろうと鬼だろうと特に問題はない一一もっとも、共存出来ずに崩壊した村も少なからずあるのだが。
「今回裁くのは鬼。しかも、人間との仲は良いわけではなさそうだ。」
蒼は何となくわかった。朔の言わんとしていることが。
つまりは、公平に裁かれない危険性があるといいたいのだ。犯人が薊だとした場合、捕まえられる確率はほぼない。しかし、裁かれる相手がたとえいなくても、何らかの形にしないと、被害者も遺族も報われない。だが、そうなると裁く方が手間である。これが、内部の人間の、しかも人間の手による犯行ならば、鬼達はどれだけ楽なことか。
鬼という自分等の面子も潰れない。稀に、こう云った事が無きにしもあらず。この岡っ引きはどうだろうか。
「しかし一一此のままだと、僕達の方が危ないかもしれないな。」
「何故?」
朔は笑う。
「愚問だね。」
蒼は肩をすくめた。

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    朔の、「愚問だね」と云う言葉についての補足です。
    ※この下には私の解説が載っています。自分の捉 え方で読みたい方は、読まなくても大丈夫です。

    この台詞の前に、此のままだと自分達が危ないと言っています。これは、外部から来た朔達に罪を被せることが容易に出来ると云うこと、つまりは、罪をきせられる恐れがあることの指摘です。それを分かっていながら、蒼は朔に危険だと言った理由を訊ねています。朔はあえて聞いている事に気が付き、愚問だね、と言ったのでした。