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やわらかな激情

『この世の「きれい」を集めて、日の光と流れ星で繋ぎ合わせたものが、彼女という人だと思う。

春の花のようなてのひらを、夏の風のような笑顔を、秋の月のような眼差しを、冬の露のような声をした彼女に、僕は恋をしている。

身の程知らずにもほどがある、愚かしい恋だ。美しい彼女を、僕なんかの「すき」で穢すわけにはいかない。

恋人になりたいだとか、せめて友達になりたいだとか、そういう罰当たりな願いは、持つことも許されないのだ。たとえ世界が許しても、僕が許さない。

ごめんなさい、好きになってしまってごめんなさい。こんなにきみが好きでごめんなさい。諦められるまでは、諦められないままでいさせて。

すきです。きみが、すき。』

100均のルーズリーフに吐露した心中を握りつぶして、後ろ手でそのあたりに放った。勉強をしに来たはずの図書室で、僕はひとりため息をつく。下校時刻はとっくに過ぎていた。

開いただけの教科書を閉じてリュックに詰め込み、「戸締まりは頼むわ」と笑った先生の顔を思い出して、ここの鍵は一体どこにあるのだろうと視線を巡らせた。

息がつまる。彼女がいた。

胸がぎゅうっと締め上げられたように痛み、血が煮え立ったかのように全身が熱くなって、―――それから一気に冷たくなる。彼女の手には、先ほど僕が投げ捨てたはずの、ぐしゃぐしゃのルーズリーフがあった。

彼女は広げた紙面と僕とを順々に眺めた後、困ったように笑う。わたし図書委員でね、まだ勉強している人が居るって聞いたから、鍵を渡しにきたの、だって。何か、何か言わなければ。

魚のように口をぱくぱくさせている僕に、彼女は1歩、また1歩と近づいてくる。来ないで、来ないでくれ、きみがよごれてしまう。できればそのラブレターもどきも見なかったことにしてくれ。

そうしてそのまますぐそこまで歩み来た彼女は、僕の胸中などお構いなしに僕の手をとり、葬り損ねたこいごころを、そっと握りこませてくる。目を見開いた僕に、彼女はまた笑う。

「あなたにここまで想われるなんて、あなたの好きな人は幸せ者だね」

春の花のようなてのひらで、夏の風のような笑顔で、秋の月のような眼差しで、冬の露のような声で、ああ、ああ。ずいぶん変わった自己紹介をするんだね。

すきです。きみが、すき。

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