驚いたのは藤だ。
「朔、今の話を聞いていなかったのかい?蒼も何故止めない。」
朔は答えた。
「僕達の村の二の舞になってほしくないんだ。」
と。
藤は表情を変えない。
「本当は平和だったんだ。
でも、崩壊した。…いや、させてしまった、かな。だから――」
固く握られた拳は震えていた。
蒼はその背中を軽く2回叩き立ち上がると、藤を見下げて言った。
「凛の所に案内してくれ。このままじゃ、凛が気の毒で仕方がない。」
藤は疲れたように、深く深く溜め息をついた。
「アンタたちは早死にするよ、まったく…。
アタシもついていってやる。」
二人は驚く。
「ちょっと待ってな、着替えてくるよ。」
藤が奥に下がると、蒼は少々顔をしかめる。
「客人を迎えて着替えだなんて…。」
「まぁまぁ…外で待っていようよ。」
静かに外を出る。
すると、開口一番に朔は謝った。
「ごめん、面倒なことになりそうだ。」
「いや、こうなるとは思っていたしな。」
皮肉げに言う蒼は続ける。
「それに、一番面倒なことになりそうなのが出現したじゃ――」
「誰の事だい?」
朔は苦笑いするだけだった。