「蒼は藤姐と同い年なんだから、名前で呼べばいいのに、と。そう思うのだけれど。」
身構えたわりにはどうでもいい内容で、再び拍子抜けする蒼。藤を横目で見やると、
「アタシは構わないよ。アンタを蒼と呼んでいるからねェ。」
「だってさ。」
…なんだこの茶番は。そう、蒼が一人頭を抱えると――
それは、急な出来事で。
「蒼、頭下げろ!」
反射に近い動作で蒼はしゃがむ。
三秒後の事だ。
調度、蒼のこめかみがあっただろう場所を通過し、しゃがむ蒼のすぐ傍へ弓矢が刺さる。
「刺客だ。」
立ち上がった蒼の背中に朔も背を合わせる。互いに自分の武器を構え、朔は藤に言う。
「藤姐、僕の傍にいて。危険だ。」
「あぁ…。」
被っていた編笠を目深にした。
「朔、気を付けろよ。手練れだ。」
「蒼、前方注意。北東の位置から約三秒後。…弾き返せ。」
「了解。」
「藤姐!」
そうして朔は藤の手を引き、左の道へそれる。
「朔、アンタ…。」
「うん、そうみたいだ。」
弱々しく微笑って、茂みへと藤を導いた。