まず肘で相手の鳩尾に一発。体を曲げた瞬間に膝で顔に蹴りを入れる。勿論、着物を着たまま。
「容赦な…。」
呆然とした朔と蒼。
優雅な身のこなしで、とうとう先程の姿勢と逆になってしまった。
藤が、その男の首筋にクナイを当て、地に押し倒す。
「アタシの首狙うなんて、とんだ成り上がりモンだねェ…。」
藤の表情が、雰囲気が、今までと違う。
気が付いたのは朔。
「藤姐!」
「アンタ、名前は?…聞いてンのかい!?名前は!!」
「やめろ、藤姐!」
振り上げられたクナイを掴む華奢な藤の手を、朔が捻りあげる。
「何すっ…!」
「やめろと言う声が聞こえなかったのかな。」
その声は氷点下だった。
元の藤に戻っている。朔は顎で男を見るよう促す。
既に、気を失っているようだった。
藤は、力が抜けたように頭を垂れる。朔も、掴んでいた手を離した。
「藤姐…。」
優しく呼び掛けると、
「すまない…。」
消え入るような声で呟いた。その声があまりにもか細くて。朔はその後の言葉が続かなかった。