太陽は真上にきている。心地好い風が吹いた、乾いた風が。 何処からともなく、揚羽蝶が舞ってきた。そして、藤の笠に留まる。其れに気が付いたように眼を上に上げたその白い横顔は、聡明だった。藤の歩が止まると、蝶は飛び立ってしまった。紫苑色の帯に、無地の名の通り藤色の着物と、艶やかな黒い蝶は良い対比となり、魅せた。 「"揚羽蝶 芳しき花に 誘われつ それ見て思う 夏来たるらし"。」 思わず口から出た其れは、藤を笑顔にした。