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背伸びの恋と見下した恋

「てかさー、光源氏はヤバいって。まじプレイボーイ。」
纏わりついてくる声に適当な相槌さえも打たずにページを捲った。新刊の単行本ももう半分を過ぎようとしているが、彼に懲りた様子はなかった。
「千年前にロリコンツンデレヤンデレ要素持ってくるとか強くね?! なんていうの、時代が違っても求めるキャラ像はブレねー的な?」
静寂。
エアコンの音が自己主張控えめに聞こえてくるだけだ。がー、がー、じー…。そろそろ新調した方が良いんじゃないかしら。
「てかあいつ、モテ男ぶってるけどやってること犯罪だかんな?! 許せねー。それだったら俺の方が…」
ひょいと髪に伸ばされた手をすんでのところで避けた。いつもはまとめていたが、冷房に油断して降ろしたままだった。私としたことがなんて愚かなことを。
「気安く触らないで。」
睨むのも惜しく吐くと、ぱたんと単行本を閉じた。閉館の時間が近い。
肌に張り付くシャツのうっとおしさもかなりのものだが、それ以上にこの人は厄介だ。どうせまた明日な、なんて私の言い分も聞かずに勝手に、
「ほんじゃ、また明日な!」
容姿とお揃いの派手な音をたてて出て行った。図書室では静かにと注意するのも彼には面倒くさい。
(続)

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