―――荷物が重いから迎えに来て。甘え上手な姫を持って、貴方は幸せ者ね。
―――言うと思いました、もう来ています。甘やかし上手な王子を持って、お前は幸せ者だな。
せっかくの祝日だというのに、僕を置いて買い物へ行ってしまった彼女に返信し、携帯をポケットにしまう。彼女の居るデパートからそう離れていない公園で、僕は大きく伸びをした。徒歩五分くらいは一人で頑張れ、姫。
ぐうんと腕を背中を伸ばしながら、何とはなしに空を見上げる。昨晩にテレビで見たサファイアよりも、ずっと鮮やかな水色をしていた。彼女の好きな色だ。ぼくもすき。
そうしてしばし日光浴に励んでいると、いつの間にか僕の隣には女の子が居るのだった。僕の隣で、僕と同じように、空を見上げている。
見たところ十歳にも満たないくらいだろうか。あどけないながらも利発そうな顔立ちをした、綺麗な子供だった。僕の視線に気付いたらしい女の子は、ソーダ水のように澄んだ声で、「こんにちは」と笑う。はい、どうも。僕も笑った。
「君は皆と遊ばないの?」
すぐそこで走り回る子供たちを差すと女の子はまた笑って、「うん」と頷いた。よく笑う子だ。きらきら揺れる髪の毛の柔さが、なんだか彼女に似ている。
「私ね、待っているから」
「ああ、親御さんと待ち合わせているんだね」
「待ち『合わせ』ているのは、お兄さんの方でしょう。私は待っているだけ。そんなことより、お兄さんが待ち合わせているのって、好きな人?」
「どうしてわかったの?」
「さっきから、ポケットの中を気にしているようだったから。そわそわしているのにしあわせそうだし。あとは、そうね」
おんなの勘よ。
お見逸れしました、名探偵。僕が降参のポーズを取ると、女の子は得意気に胸を張った。そんなところはちゃんと子供らしい。
僕は咳払いをして、恭しく尋ねる。「それでは名探偵、一体どなたを待っておられるのです?」。女の子は口髭を撫でるような仕草で、答える。「私はね、誕生日の奴を待っているのだよ」。