意外にも蛸はそうめん好きだった。三〇〇グラム以上たいらげた。
「仕事行きたくないな」と、わたしは言った。
「どうして?」と、蛸は眠そうな目をこすりながら言った。
「人間関係が」
蛸は目を閉じて言った。
「バカはきっぱり切り捨てる。バカを相手にするのは時間の無駄。中途半端なバカも同様。金持ちはみなこの発想で生きている。だから金持ちは金持ちでいられる」
「わたしも金持ちになれるだろうか」
「無理だね」
蛸は眠ってしまった。わたしは窓を開けた。初夏の風が洗濯物をゆらしていた。理想を持たなければ不満もない。だが理想を持たなければ現状も維持できない。あきらめたら、いまある能力も失う。少し寒くなった。窓を閉めた。