“人と比べて自分は劣ってるからって、気にすることない”
桜尾さんはいつも私の心を見透かしたようにアドバイスをしてくれる。不思議な人だ。
「…はい。そうですね」
私は笑って桜尾さんに返した。
桜尾さんもいつものようにふわりと笑い返してくれた。
(この人はどうしてこんなに優しい笑顔が出来るんだろう…)
「よし、そろそろ閉める時間だ。白帆さん、夏川くん、また明日ね」
かなり話し込んだ。
人と関わることが苦手な私だが、夏川くんとは同じ本好きということで話が合ったので、すぐに仲良くなれた。
また明日 と桜尾さんが言ったのは明日、夏川くんも手伝いに来てくれるということだからだ。
彼もここが、桜尾さんのことが気に入ったらしい。
また一人、常連客が増えましたね。
このまま、順調に増えていくといいですね。
と、心の中で桜尾さんに話しかけた。
すると桜尾さんは、ゆっくりとこちらを見て優しく笑った。まるで私が心の中で言った言葉に喜んでいるかのように。
桜尾さんは、人の心が読めるのだろうか。でも、問い詰めたりはしない。彼が話してくれるまで待とう。話したくないならそれはそれで、別にいいから。
「さよなら。また明日」
夏川くんがそう言って私たちに背を向け帰っていった。
「僕はまだちょっと仕事が残ってるから」
桜尾さんは店内から手を降りながらそう言った。
「じゃあ、また明日」
「うん。また、明日もよろしくね」
最近は退屈だと感じることが少なくなってきた気がする…。