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-季節 ⅩⅤ-

「えっ………憧れって…?」
夏川くんが心配そうな顔をした。
「いえ。何でもないんです」
夏川くんには隠せても桜尾さんはたぶん全部知ってるんだ……。
(心読めるんだもんな、桜尾さん)
そう思ってふと桜尾さんの方を見た。
桜尾さんは優しく微笑んでいた。
「僕は何も言わないよ。白帆さんに言われない限り」
(やっぱり優しい人だ…)
人の心が読めてもあえて何も言わない。
人の心が読めるから人の気持ちがよくわかるんだろうか。
“ふじばかま”の花言葉… '思いやり'
「確かに“ふじばかま”っぽいですね」
いきなり話しかけられて少し驚いた夏川くん。
そして嬉しそうに
「そうですよね。ぴったりだと思うんです」
そう言われた桜尾さんは嬉しそうに照れ笑いした。
それから私の方に向き直して優しく笑い掛けてきた。

「ゆっくりでいいんだよ。白帆さんにはまだ沢山時間がある」

“時間は沢山ある”

そうだ。私はまだまだこれからだ。
ゆっくり答えを出せばいい。
ゆっくりと、確かな答えを。

「運命っていつ決まるかわかりませんからね。突然やって来るものですから、ゆっくり待てばいいと思いますよ」

夏川くんがそう言った。
とても大人びた言葉だった。

  • 桜尾 巳汐 心が読める不思議な青年
  • 白帆 唯 
  • 夏川 阿栗 
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