0

-季節 ⅩⅥ-

「ありがとう」
いつも以上に素直に笑えた気がする。
その瞬間、

ババババンッッッ!

とてつもなく大きな破裂音がした。
「えっ…?」
ピカピカッとくすんだ窓の外が光った。
なんだろう……?
「花火…だね、今日」
桜尾さんが窓の外を見ながら言った。
そうだった。
今日はこの夏最後の花火大会。
「見に行くかい?」
私と夏川くんは顔を見合わせて、そして頷きあった。
桜尾さんがずっと座っていたカウンターから立ち上がって
「よし。もう店も閉めるしね。行こうか」

重い扉を開けると外では花火が大量に打ち上がっていた。
この辺りは田舎なので建物の背が低いため、どこからでもよく見える。
「人と一緒に花火見るって、初めてです」
夏川くんがそう言って私に笑い掛けてきた。
桜尾さんも
「僕も初めてだな。一人ではよく見てたけど」
と苦笑いした。
綺麗だ。
そういえば私もこんな風に誰かと一緒に話しながら見たことはなかった。
いつも見ているより一段と綺麗に見える。

「もう夏が終わるね」
桜尾さんが呟くように言った。
「そうですね」
私と夏川くんが同時に答えた。
今年も夏が終わる。いつもと違う夏だった。
濃い夏だった。
「たーまやーーー!!」
桜尾さんが叫んだ。
とても楽しそうに。
「たーまやーーーー!」

ー暑さが和らぎ出した夏の終わりの物語ー

  • 第2章 終了!
  • ちょっとはやかったかな?
レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。