「白帆さん、夏川くん。二人はそういう'特殊な能力'とかあったりする?」
桜尾さんが唐突に聞いてきた。
'特殊な能力'…
彼は“人の心が読める”という特殊な能力を持っている。
「いや…僕はないと思います……よ?」
夏川くんが少し悩みながら言った。
私も
「……ないと思います、たぶん」
と答えた。
でも、そんなこと聞かれても…
「……今はないだけかもしれない…よね」
桜尾さんが苦笑いしながら言った。
やっぱりわかってて聞いたんだ。
(……?どうして聞いたんだろう?)
「じゃあ、あったらいいなって思うことは?」
なんだか楽しそう、桜尾さん。
元々人と話すのは好きなのかな?
「あったらいいなとは思います。'予知能力'とか。未来が予知できたらもっとこう………」
夏川くんがやけに真面目に答えた。
彼と知り合ってからもう二ヶ月ほどか。
初めて会ったときからちょっと変わった人だなとは思っていたのだが、時々変わったところで真面目になる。
(それも一種の魅力なのかも)
最近はそう思うようになった。
「'予知能力'ねぇ……」
桜尾さんがなんだか考え込んでいる。
短い沈黙。
「欲しいな。'予知能力'」
そう桜尾さんが言った瞬間、いつもは叫び声のような音をたててゆっくりと開く店の扉が、勢いよく開いた。
そこに立っていたのは髪を明るい色に染めた一人の青年だった。
(桜尾さんと同い年ぐらい?)
私がそう思って彼と桜尾さんを交互に見ていたら
二人の表情がいきなり変わった。
そして、扉の前に仁王立ちしていた彼が嬉しそうにこう叫んだ。
「巳汐!!」