0

ラッコ

 ラッコに育てられた人間の子どもがいて、ラッコが人間の子どもなんか育てるわけねえだろう。海の中で人間育つかよ。溺れるだろうが。なんて言われるかもしれないがいるものはいるのだからしょうがない。ラッコに育てられた人間の子どもは青年になり、どうも自分は親きょうだいとは違う種類の生き物みたいだなあと思い始めたころ、漁船に拾われ(本人は捕まったと感じたようだが)、人間の社会で生きるようになった。
 感受性期はとっくに過ぎていたが柔軟な脳ミソだったらしく片言だが人語を話せるようになった青年は、ビルの清掃スタッフになった。
 青年も年ごろらしく恋に落ちた。同じ職場の事務員だ。青年は事務員をデートに誘った。事務員はセレブ志向だったが青年はイケメンだったし何だかエキセントリックな魅力があったから応じた。海への郷愁があった青年は水族館に向かった。インスタグラムにアップするからとやたらと写真を撮らされるのには辟易したが楽しかった。ラッコのコーナーに来た。何ということだ。自分を育てた母親ラッコがいた。母親ラッコは、幸せそうだった。そりゃそうだ。餌の心配も流される心配もない。海に比べたら天国だ。
 青年は、無言で事務員の手を引きその場を離れた。考え過ぎたら駄目だ。と思った。

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。