山道。草いきれ。通勤途中だというのに、好奇心に駆られ、変な路地に入ってしまった。都会だと思っていたが、ちょっと道を外れると、ジャングルのような自然が広がっている。わたしの田舎よりひどい。手入れする地元民もいなければ行政の手も入らない放置された地域。子どものころ読んだ近未来の、SFの世界。
子どものころ俺は、道草したことなどなかった。知らない所、知らないことが怖かったからだ。俺は、成長が遅いのだろう。ばかなのかもしれない。いや、ばかなのだ。
完全に迷ってしまった。つまり完全に遅刻だ。
携帯は、さすがに通じた。遅刻します、と言うつもりが、休みます、と言ってしまう。
引き返さず歩き続ける。道幅が、狭くなった。植生が変化している。川が流れている。裸足になり、川に入る。いい気分だ。川床に横になる。
気がつくと俺は、大山椒魚になっている。だからもう戻らない。