あなたは女子高生、学校の水泳大会に向け、市民プールでこっそり練習することにする。あなたはおとなしいが負けず嫌いで、かつ、努力しているのをひとに見られたくないタイプ。
入念に準備運動をし、水に静かに入る。息を整え、背泳ぎを始めようとする。すると、監視員が笛を鳴らす。
「ちょっと君!」
自分のことのようである。あなたは怪訝な表情で監視員を見返す。
「今日は背泳ぎ禁止デー‼︎」
いつものあなたなら、何それ、と思いながらも従うのだが、今朝お母さんとけんかしてむしゃくしゃしていたのと、夏の解放感から、無視して背泳ぎを再開する。ターンしようとしたところで、あなたは何かに引きずり込まれる。
意識が戻り、半身を起こすと、ひんやりとした、岩の上にいる。暗闇に目が慣れると、奥に何かがいるのがわかる。
「おはよう」
「……ここは?」
「わたしの別荘だ」
「あなたは?」
「わたしは大山椒魚だ」
「ここから出たいんですけど」
「無理だ。出口はわたしがふさいでいる」
「出して下さい」
「無理だ」
「どうして?」
「お前は若くて美しく、健康だからだ。手元に置いておきたい」
あなたは立ち上がり、大山椒魚をどかそうと試みるが、びくともしない。
一か月が過ぎた。あなたの命は終わりに近づいている。
「怒っているか?」
大山椒魚がきいた。
「……怒ってなんかいない……。怒りを向けたら……、自分との関係性が強くなり、さらなる怒りにつながる……。あなたとわたしに関係はない」
あなたはこときれる。大山椒魚が、さめざめと泣く。