ミヨちゃんこと三好清美は私をキッと睨み付ける。教室の対角線からの鋭い視線に、一瞬怯み、やっぱりミヨちゃんはカッコいいって思う。ミヨちゃんは昔からサラサラのショートヘアが自慢の、美しい女の子だった。小学校の時の私は同じクラスのミヨちゃんが羨ましくてしょうがなかった。へちゃむくれな私と、カッコいいミヨちゃん。いくら憧れても足りなかった。運動も勉強も苦手な私は、唯一絵を描くことが好きで、描いた絵をミヨちゃんに見せては、喜んでくれるのが嬉しくて仕方なかった。ミヨちゃんが喜んでくれる絵を描けることが、私が私を好きになれるたった一つのことだった。私は、目の前の彼女の、険しい顔を見つめる。私は今でもミヨちゃんが好きだ。ミヨちゃんの、まっすぐで澄んでいる瞳が好きだ。私は口をパクパクさせて、胸の奥の気持ちを吐露してしまいそうになる。でもそんなことして、彼女の美しい髪と、まっすぐな瞳を汚すのは、この上もなく最低だって、わかってる。わかってるから、私の口から何も出てこなくて、無様に口をパクパクさせて、悲しくなってうつむく。さっきまで赤く染まっていた外の景色は、一気に色を失って、冷たさに青く染まる。ミヨちゃんは、何か大声で叫んで、近くにあった濡れ雑巾を私の顔目掛けて投げつけると、教室から飛び出して何処かへ行ってしまった。取り残された私は、雑巾で濡れた顔に安堵する。色を失った景色に、雲がどんどんと流れ込んでいく。私は小さく、にへら、と笑う。自分で自分を笑うのは、この上もなく最低だ。