「あたし、いつか空を飛びたいんだよね」
いつだったかそんな話をしたこと、34分前をもって私のものでなくなった彼は覚えているだろうか。錆びたフェンスをよじ登り、宙と足場の境目ギリギリにまで足を運ぶ。固い地面へ叩きつけられることよりも、恐らく派手にめくり上がってしまうであろうスカートの中身の方が怖かった。あたし今日どんなパンツ履いてたっけ。ロングヘアが好みだという彼のために伸ばしていた髪が、夏風になびく。新しく出来たとかいう好きな子はショートヘアのくせに、まったく彼は私に嘘しかつかない。こんなときですら青い空と濁っているような澄んでいるようなチャイム、その最後の一小節が始まるあたりで私は身を投げた。徐々に悲鳴の混ざってゆく喧騒とせっかちなセミの歌声、を、どこか遠くに聞きながら、私は目を閉 じ
「全然飛べてねえじゃんよ、馬鹿」
なんだあ、覚えてたの。