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人魚のふりして夢をみる

今、わたしがここで卵パックを落としたなら、じゅわっと音を立てて、アスファルトに無数の目玉焼きが姿を表すだろう。そんなことを考えてしまうほど、暑い。アイス食べたい。早足でぺたぺたするビーチサンダルは去年、あの人と行った海の砂をぽとぽと、こぼす。ギラギラしたやつだった。眩しいほどに、焼けそうなほどに。立ちくらみしたら波が押し寄せてきて、これじゃいけない。小石を蹴飛ばす、剥き出しの赤い爪が夏に喧嘩を売り飛ばす。
強引な人がいい。クーラーの効いた部屋でだんだん駄目になっていくわたしを無理矢理外に連れ出して、海に投げ込むくらいの人がいい。でも、優しくしてほしい。地球の中心に引っ張り込まれて、空気をなくして、状況が飲み込めない、ずぶ濡れでブスなわたしを笑って浮き輪を投げてよ。そしたら君も飛び込んで、ふたりで海になろう。
夏みたいな男は最後は台風になって、どこか知らない北の国へ去って行った。激しい雨はこの胸にためておいて、干からびた時、飲み水にでもしますよ。

扇風機の前、わたしだけの場所。首筋に張り付く一筋の黒髪。うっすら霜のついたソーダアイスの袋、痛いくらい冷たい舌の先。この夏。わたしだけのもの。わたしだけのもの。

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