シマリスさんがエゾリスさんのおうちをたずねた。エゾリスさんはパソコンに向かって何やら考え込んでいた。
「これ、どんぐり」
シマリスさんがエゾリスさんの背中に言った。
「置いといてくれ」
エゾリスさんが背中を向けたままこたえた。
「今度は何の研究をしてるんだい?」
エゾリスさんは、「人間の交配の研究だ」と言ってから椅子を回転させ、シマリスさんの真正面にぴたっと止まった。
「遺伝的距離が近いと遺伝情報がホモになるため暗記力や身体能力が二倍になるが、自分の中にかけ離れたファクターがないから単純で想像力がない。逆に遺伝的距離が遠いと想像力はあるが暗記力が弱い。遺伝情報のホモとヘテロの割合がちょうどいいのが何でも平均点をとる秀才で、アンバランスなのが天才なんだろう。もちろん狂人になる可能性もあるわけだが」
「そういうのは優性思想とかで人間がすでにやったんじゃないのかい?」
「それは違う」
どんぐりはあまり好きじゃないんだが、と前置きしてから口に何粒も放り込み、ぼりぼりやりながらエゾリスさんは言った。
「あれは悪い種は根絶やしにしてしまえという思想だ。結果遺伝的距離が近い似た者同士が残り、似た者同士で交配するからさらに遺伝的距離が近くなり、種が弱まる。免疫力の低下や不妊だ。で、絶滅する」
「なるほど、それで人間は減ってしまったんだね」
「よい遺伝子を残すだの悪い遺伝子を根絶やしにするだのがそもそもおかしな話なんだ。よいも悪いもかけ合わせの問題。だから優秀もばかもまぬけも必要なんだ。多様性がなきゃ駄目ってことだ。何だかこたえが出ちまったな。偶然にまかせてりゃいいってことだ。メシ食いに行こう。おごるよ。いや、どんぐりじゃなくてさ」