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蛙の王子

 ある小国の王子が、悪い魔女の魔法によって、蛙の姿に変えられてしまう。魔法を解く方法はただひとつ、若い娘にキスしてもらうこと。
 蛙にキスしてくれる若い娘なんてどこにいるんだよ。途方にくれて湖のまわりをぴょこぴょこしていると、鞠をついて遊んでいる若い娘を発見する。普通の頭脳の持ち主だったら駄目もとでストレートに切り出すところだが、そこは腐っても王子、とっさに思いついたプランを実行することにする。
「ちょっと君、可愛いねえ!」
「わあっ。びっくりしたあ。……あれ? いま、ぼちゃんって……あ、湖に鞠が、どうしよう」
「おやおや。風に吹かれてあんな遠くまで」
「どうしよう。お父様におねだりして買ってもらったばかりの鞠なのに」
「そりゃあ、お父様に怒られるでしょうなあ」
「あっ、どーしよー、どーしよー」
「ご心配なく、わたしはごらんのとおり、蛙です。あんなもの取ってくるのは朝飯前」
「ほっ。よかった」
「しかしですなあ。ただで取ってくるってわけには」
「わたし、どうすれば?」
「キスしてください」
「キスですか?」
「はい。キスです」
「蛙には寄生虫がついてるってきいたことがあるけど大丈夫かしら」
「ご心配なく。わたしはそこいらの不衛生な蛙とは違います。では、取引成立ってことで」
 わざわざ説明するまでもないだろうが、この若い娘、お姫様である。人間の姿に戻った王子は大国の王となり、めでたしめでたしかと思いきや、近隣諸国との外交、戦争、飢饉の対策などで精魂尽き果て、二十八歳の若さで亡くなる。死のきわで思ったことは、蛙のままでいればよかったな。

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