ある小国の王子が、悪い魔女の魔法によって、蛙の姿に変えられてしまう。魔法を解く方法はただひとつ、若い娘にキスしてもらうこと。
蛙にキスしてくれる若い娘なんてどこにいるんだよ。途方にくれて湖のまわりをぴょこぴょこしていると、鞠をついて遊んでいる若い娘を発見する。普通の頭脳の持ち主だったら駄目もとでストレートに切り出すところだが、そこは腐っても王子、とっさに思いついたプランを実行することにする。
「ちょっと君、可愛いねえ!」
「わあっ。びっくりしたあ。……あれ? いま、ぼちゃんって……あ、湖に鞠が、どうしよう」
「おやおや。風に吹かれてあんな遠くまで」
「どうしよう。お父様におねだりして買ってもらったばかりの鞠なのに」
「そりゃあ、お父様に怒られるでしょうなあ」
「あっ、どーしよー、どーしよー」
「ご心配なく、わたしはごらんのとおり、蛙です。あんなもの取ってくるのは朝飯前」
「ほっ。よかった」
「しかしですなあ。ただで取ってくるってわけには」
「わたし、どうすれば?」
「キスしてください」
「キスですか?」
「はい。キスです」
「蛙には寄生虫がついてるってきいたことがあるけど大丈夫かしら」
「ご心配なく。わたしはそこいらの不衛生な蛙とは違います。では、取引成立ってことで」
王子がすいすいっと泳いで取ってきた鞠を受け取ると若い娘は、王子にキスしようとする。その純粋さに王子は心を打たれてしまう。
「嫌だなあ、お嬢さん。キスなんて、冗談に決まってるじゃないですか」
「それでは、どうしたらよいのでしょう?」
「そうだ。チョコバーなんか持ってません?」
「持ってます持ってます。甘いもの大好きなので」
「じゃあチョコバーでチャラってことにしましょう」
若い娘に背を向け、チョコバーをかじりながら歩き出す王子。人間の姿に戻っていることに、しばらく気づかない。