「むきむきになりたい。腹筋ばっきばきになりたい。でも筋トレするのはしんどいなあ。腹筋ベルトは高いし」
「よおっ」
「なんですかあなたは」
「わたしは悪魔だ。お前のような怠け者の願いをきいてやるのがわたしの仕事」
「やったー。ぼく、筋肉むきむきになりたいんです」
「こんな便利な世の中に生きてて過剰な筋肉など必要なのかね。それに人間には殺傷力のある道具を作る知恵がある。無駄な筋肉なんかはいらない」
「あの。願いを人生相談みたいにきいてあげるだけってことじゃないでしょうね」
「はは。まさか。ところであらかじめ警告しておくが、願いをきくのは三つまでだ。三つきいたらお前の魂をいただく」
「べつにいいですよ。ぼくは筋肉が欲しいだけなんだから」
「では、この薬を飲みたまえ」
「うわー、なんかいかにも効きそうな色だ。ごくっ……ぐあああああっ……ああっ、すごい。まるでギリシャ彫刻みたい」
「ふふん。どうだ」
「鏡見てきます。……うわあああっ」
「どうした? 全身むきむきだろうが」
「こんな不細工な顔じゃあ女の子にモテないよ」
「亀の甲羅でも嚙み砕ける咀嚼筋だ」
「顔は普通でいいんですよ。元に戻してください。ああでもそうしたら願いが二つに」
「失敗は成長に必要なコストだ。この薬を飲みたまえ」
「はあ〜。ごくっ……ぐああああ……はっ。あれっ? 全身元に戻ってる」
「元に戻せと言っただろうが」
「いや、ぼくが言ったのは……」
で、結局、悪魔は魂を手に入れる。