信仰心のあつい男が、砂漠をさまよっている。もう一週間何も口にしていない。もちろん神の与えた試練である。神が、もうそろそろいいかな、って思ったタイミングで悪魔が現れる。悪魔は男に、おにぎりとペットボトルのお茶を差し出す。男はお茶を夢中でごくごくやってから、はっとなり、「なんということを」とつぶやく。
「おにぎりはいらないのかね。なあに、食べても魂をよこせなんて言わんよ。ただこの用紙に名前と、わたしたち悪魔がいかに素晴らしいかという文を書いてくれればいいんだ」
男はおにぎりをほおばりながら、用紙にびっしりと悪魔をたたえる文章を書く。おにぎりとお茶のために神を裏切ってしまったという罪の意識にさいなまれるよりも、悪魔が素晴らしいから信仰を変えたのだと考えたほうが楽だったからだ。