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初恋

ある日、一匹の蛍は恋をしました。
瞳は大きく輝いて、桃色のほっぺと愛くるしい唇、絹のように柔らかな黒髪を持つ少女に。
少女はいつも草木や新しく芽吹いた花、小さな虫や雨の滴、自分を取り囲む全てのものと心を通わせる豊かな、世間に囚われる事のない天真爛漫な少女です。

蛍はなんとか少女を喜ばせたくて、良い案がないか何日も何日も考えました。
浮かんでくる案は1つだけ。
「少女に綺麗な美しく輝く光をみせたい」
宝石や作り物にはない温かい光を。
でも、蛍は上手く光を発することができません。
そして、自分が少女と同じ地上で息をできる時間が限られていることもわかっていました。

何日か過ぎ、少女は家族と一緒に蛍の住む河原へとやってきました。
夕焼けに染まる空と心地好い風、そして何よりも愛しい少女の笑顔が傍にあることに蛍は胸がいっぱいになりました。
段々と夕闇が迫るなか、蛍は一世一代の賭けに出ます。

金平糖を散りばめたような満天の星空に、少女はいつものように話しかけています。
ふと気がつくと、少女の手が届きそうなところにどの星よりも美しい、小さく、けれど力強く舞う星がありました。
その光はハートやピアノ、少女の好きなものの形を縁取るように優しく動きます。
“なんて素敵なのかしら”
少女は嬉しくなり、より一層可愛らしい、キラキラと瞬くような笑顔をみせました。

暫くすると、その光は段々と闇に溶けていき見えなくなりました。

少女は最後に星空へキスをして、帰っていきました。

その日は恋をした蛍にとって初めて自分の光を発した日であり、命の終わりを告げる日でもありました。
それでも蛍は幸せです。
少女の笑顔は、輝く瞳は、あの瞬間は自分だけに向けられたものだから。



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