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ドアを開けると2

 ドアを開けると、あの人形がいた。
「おかえりなさい」
 人形が言った。 余はもちろん言葉が出なかった。
「ごめんなさい。やっぱり来るべきじゃなかったみたい……帰ります」
 人形がそう言って草履を履こうとするのを見て、余ははっとし、あわてて制した。
「待ってくれ。少し驚いただけだ。行かないでくれ」

 膝を崩して楽にしてくれたまえ、と余が言うと、このほうが楽なので、と正座したままでいる。
「足がしびれるだろう」
「しびれません。人形なので」
「お茶とコーヒー、どちらがいいかな」
「お茶もコーヒーも飲みません。人形なので」
「では、ケーキなんかも、いらないんだろうね」
「はい。飲んだり食べたりしません」
「ところで、なぜわたしの所に来たんだね」
「野暮なこときかないでください。そんなだからいつまでも独身なんですよ」

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