「私達は時として、最愛のものを食べてしまいたいと思う。生まれたての赤子に対して、食べてしまいたいほど可愛いという感情を、人は恐れもせずに抱くものである。愛とは、だからして、見るだけでは飽き足らぬものなのだ。目で愛し、観想し、出来ることなら食してしまいたいほど、私達は恋い焦がれてしまうものだ。しかるに愛の対象とは、目で見て、口に入れて、初めて満たされるようなものでなければならない。諸君、私の言わんとすることがわかるか。わからなければ想像してもらいたい。諸君にとって、目で愛し、食べて愛することができるものがなんなのか。そう、そうだ、シューアイスだ。あの甘美な楕円形を想像してみたまえ。そして、口に入れたときの、あの至福を思い出して見たまえ。私達がもっとも愛すべきものは、まるで天使のようにふわりと軽やかに、それでいて聖母のようにどっしりと安堵させるような甘さと食感で、私達を包み込んでくれるのである。私は、校長である前に、一人の人間である。この私という人間が、この世でもっとも愛すべき存在が、たった一つのシューアイスであるということを、私は隠すつもりもないし、むしろ声を大にして喧伝したい。私達はシューアイスを義務として愛するのではない。シューアイスが、愛すべき存在であるから、愛するのである。シューアイスを信ずる者たちよ、誇らしく胸を張れ。私達が愛するものは、愛であるがゆえに、正しいのだと。今一度、私達は、私達が愛するものは何か、この愛を示すには、どのような態度を持って接するのか、考えてみるべきである。もう一度言う。愛は、目で見て、観想し、出来ることなら食べてみて、初めて満たされるものだ。どうか、愛する心を失わぬよう。それではこれにて、月例の全校集会を終了とする。各自、解散。」生徒は眠い目をこすり、ぞろぞろと教室に戻っていった。