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どうかこの歌が、君に届きませんように

酒の空き缶と煙草の空き箱の散らばった、空っぽ検定1級相当、僕の部屋。深く眠っていたはずだった。時刻は午後11時35分。

今日と明日の境目、世界は終わる。

つまり突如観測されたとかいう小惑星が地球にぶつかるまで、残り30分足らず。目覚めなきゃ良かった。寝返りを打つと背中で何かを踏んだような気がした。どうせ彼女へ渡せなかった恋文もどき、だろう。

ま、どうでもいい。



「ライター貸して頂けます?」

一目惚れだった。

返事の1つもできないままその掌にライターを乗せると、彼女はありがとうと笑って、キスをするように煙草をくわえた。見慣れた喫煙所がまるで天界だ。

視線が絡んでいると苦しいのに、横顔を盗み見ているのはもっと苦しい。脳内へ浮かんでは消えを繰り返す、何の気休めにもならないあれこれが、牛乳と一緒にかき混ぜられているようだ。こんなカフェオレは飲みたくない。

「あの」
「はいっ」

背を伸ばすと、彼女はまた笑う。僕が彼女へそうしたように、彼女は僕の掌へそっとライターを乗せた。助かりました、って。何だか堪らなくなって、ポケットへ入れっぱなしだったレシートを引っ張り出し、ペンを走らせた。人生一熱を込めて記す連絡先。

が、最後のpの字を書き始めたところで、彼女は喫煙所の外へ向かって「はぁい」と返事をした。どうやら誰かに呼ばれたらしい。

私もう行かないと。あっさり向けられた背中。ちょっと待って。僕はペンを投げ出し、彼女の左手を握った。

あとは察してほしい。僕がライターを乗せたのは彼女の右掌。彼女が僕の掌へライターを乗せたのも右手。彼女の左掌なんて、左手なんて、知らなかったのだ。

―――薬指に、何が光っているのかも。

彼女とは、それきり。



生まれてすぐに死んだ恋だった。

pの成り損ないが目立つそれを背中に感じながら、考える。彼女と彼女の男は、今日をどのように過ごしたのだろう。弁当なんかを持って、海岸へでも行ったのだろうか。

ま、どうでもいい。

僕は足の指でピンク色の円盤をたぐり寄せる。「エロいお姉さんはお好き?」。イエス。時刻は午後11時40分。世界が終わるまであと20分。1回くらいは気持ち良くなれるだろうか。君が好きだと、呟けるだろうか。

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  • んぎゃ、と変な声が出てしまいました。笑
    私のタイミングに恵まれたことと言ったら!!

    空っぽ検定1級相当、くすりと笑っちゃいました。真珠の爪先さんの、こういう細かいところの言い回しが好きです。フライが遠征したりだとか。
    pの成り損ない、この言い回しも素敵だなぁと思った次の瞬間、ローストビーフのカップルかここ!!!と大興奮でした。世界が終わる時、別の場所で知らない誰かだって勿論何かしらをしてるのでしょうけど、そりゃ道ですれ違った程度の繋がりの人だって何処かで何かをしているのですよね。なんだか、世界って繋がってるよなぁ、とほっこりしました。

    前後しますが、確かにそんなカフェオレは飲みたくはないですが、ついつい生産してしまいます。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるした感じ、そうそうそうなの、と思うけどなかなか説明しようにも扱いの困る奴だったので、カフェオレ!! 素敵!! ともう叫んでいます
    これからカフェオレを飲むときは誰のどんな感情かしら、なんて考えてしまいそうです。美味しいものが美味しくなるやら不味くなるやら。笑

    世界が終わる日、終わるまで、愛する人と一緒にいたいというのが一番ポピュラーな気がしますが、なんだかんだ芽生えてすぐに凍結された気持ちの想い人を思ってひとり興じる人が多いんじゃないかな、と思うので、彼の終わりの迎え方好きですし彼にも惹かれます。
    せめてもの悪足掻きですが、歌い終えて叶わぬ恋に虚しくなる前に、小惑星がぶつかってくれますように、なんて。

    真珠の爪先さんのタイトルのセンス本当に素敵だなぁと常々思っているのでいつも読み終えからもう一度じっくりタイトルを読むのですが、今回は特に切なくなりました。届いたらいいけど、どうせ届いたってな、届くわけないよな、じゃなくて届きませんように。小惑星が猛烈に憎らしくなってしまいました。

    長々とすみません。
    お好きなストレートティーに合うような、クセのないスコーンを目指して、こそっとレスを置かせていただきます。

  • はんなりボンバーさん、レスをありがとうございます。帰りのバスの中、はんなりさんからレスが届いてる~!とニヤニヤしてしまいました。通報されなくて良かったです。

    空っぽ検定うんぬんの一文は自分でも書いていて楽しかったので、嬉しいです。文字数の関係で使わずじまいだった「挙動不審オブザイヤー」や「穴があったら入りたいフェスティバル(穴フェス)」は、また別の何かで使おうと思います。笑

    「アナザー・ローストビーフ」とタグ付けするかどうか、ギリギリまで悩みました。台無し感。悩んだ末にぼかしましたが、気付いていただけましたか…!計画通り(どこぞの新世界の神のようなしたり顔で)。

    コーヒーが強くて苦めの人もいれば、ミルクが強くて甘めの人もいる。どっさり氷の入ったアイスの人もいれば、たっぷり湯気が立つほどホットの人もいる。形容しがたいアイツをあえて何かに例えるなら、カフェオレかなって思います。白黒つけないカフェオレ。
    「僕」の脳内カフェオレは特別おいしくないだろうな。笑

    卑屈な終わりの話にするつもりだったのに、出来上がったのはありふれた終わりの話でした。
    「どうかこの歌が、君に届きませんように」。
    「心配するまでもないよ、彼女はとっくに世界から逃げ出したからね」と返事をしたら、「僕」は泣くのでしょうか。笑うのでしょうか。

    世界の終わりネタを書くたびに悪役で登場してもらっている小惑星くんには、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

    長々と、だなんてとんでもない。気持ちの込もったご感想をいただけて嬉しかったです。今一度お礼を言わせてくださいね。ありがとうございました。スコーンウマー。

  • いつもご丁寧にお返事くださってありがとうございます。小躍りせんばかりの勢いのまままたレスを書いていますがどうかお付き合いください。
    (はんなりさんと呼んでいただけると執拗に喜びます。ありがとうございます。)

    挙動不振オブザイヤー! 穴フェス!!
    ツボでした。堪らないです。使われた時見つけるのが楽しみです。真珠の爪先さんの文章を読むのにこんな素敵な特典が付くとはなんてご褒美でしょう…!

    関係ないのですが、新世界の神と聞いたらなせだか工事現場のようなシーンが浮かびました…一輪車をせっせと押す私含む作業員たちと、黄色いヘルメットをかぶり指示を飛ばす真珠の爪先さん…… そんな世界の創造の仕方も面白いなぁと思っただけの話でした。ちゃっかり自分も作業員に入れていましたが。笑

    彼女のいる場所が自分の隣ではないとて、まさか既にこの世界にはもういないなんて思ってもないんじゃないかなぁと思うと一層切ない…泣くのも笑うのもあんまり想像がつかないです。

    ところで、悪役でない小惑星くんに関してむくむくと妄想が膨らんできたのですが……掲示板で、書かせていただけないでしょうか!?(ぺこり)
    こう、すみっこでおとなしく書きますので…m(_ _)m

    またスコーン大量生産するかもしれませんがその時はよろしくお願いします。笑

  • はんなりさん(さっそく呼ばせていただきました)、度々レスをありがとうございます。お返事が遅れてしまって申し訳ありません。

    穴フェスに関してはリアルの会話でちょくちょく使っているのですが、なかなか浸透しません。
    次に「僕」のような奴を書くとき、使おうかなと。良かったら探してみてください。笑

    やだ何それ面白い。でも、株式会社真珠の爪先はきっとブラック企業ですよ。簡単におうちへ帰してなんかあげません。

    「僕」のことだからきっと「ま、どうでもいい」って言うんでしょうね。男の子の言う「どうでもいい」は大抵どうでもよくなさそうです。

    小惑星くん「ええやで」

    いいそうです。出演料は弾ませてやってください。なんて、まず小惑星くんは私のものではないですしね。笑
    一番わかりやすい地球の滅び方かな、と思って、いつもそういう設定しているだけなので。私の話に出てくる人物の話を、ということでなければ大丈夫です。なんだか一丁前にすみません。

    「胃の中に成人男性を飼ってる」とまで言われたことのある私です、どーんと来い。笑
    それではまた。