「神崎、お前ってひどい奴だったんだな。」ちょっと怯えた表情で牧田が私に聞いてきて、ちょっとふきそうになった。ひどい奴って、言い方ひどくない?てか同じクラスでもないあんたに言われることじゃないと思うんですけど。2階廊下の一番端の理科室の前で、牧田は偉そうに腕を壁に突きだし、私を問い詰める。「彼氏がボコられたからって、あそこまでする必要ないだろ。意味わかんねえよ。」めんどくさいなあ。早く教室戻んないと後藤田に怒られるんですけど。朝からダルがらみとか本当に勘弁してほしい。「杉田なら3階の空き教室にいるから、迎えに行ってあげれば?あいつのことで話あんだったら本人連れてきてからにしてよ。」「お前がそんな奴だったなんて、知らなかったよ。もっとマトモで優しい女かと思ってたのに。」ああもうほんとグダグダうるさいなあこいつは!さすがに頭きた!偉そうに突き出された左腕を取って思いっきり捻りあげる。勢い余って牧田の顔が壁に激突し、鼻が折れたような音がする。牧田の顔辺りからドロドロした血が白塗りの壁をつたって落ちるのを見ながら、私は牧田にだけ聞こえるように、耳元で吐き捨てるように言った。「人を勝手に良い奴だとか悪い奴だとか決めつけてんじゃねえよ。ちょっと容姿良くて勉強できる女ならおしとやかな人間だって考えがそもそも甘いんだよ。ヘドが出る。お前みたいな奴がいるから生きてて息が詰まりそうになる。そんなに自分の価値観が大事なら、一生引き込もって家から出んな、クソ野郎。」腕を離すと牧田はそのまま崩れ落ちた。私は肩の埃を払うと、足早に教室に戻っていった。