僕はただ走った。右へ左へ。彼を求めて。
けれどもどこに行けどその姿は現れない。
僕は疲れなど忘れるようにただ走った。
店主は自分勝手な人。もしかしたらと思うと足が止められない。
どこだ...どこだ...どこにいるんだ。
僕は少し焦っていた。
駄目だ...どこにも居ない。と諦めたその時。
「あっあの!」
廊下に響くは甲高い声。
僕はもしかしてと振り向いた。
そこに居たのは僕と同じく息を切らした式場の係員だった。僕を探し走って来たのか。
「...ぁ。えっと?」
僕は少し残念な気持ちを抱えた。
「そろそろお時間です」その言葉はタイムオーバーを伝えるブザーの音のように聴こえた。
渋々式場へ戻る。
何とも言えない表情で席に着いた僕に妻は
「トイレ遠かったの?」と冗談気味に僕に問う。
「ううん。見つからなかった」と僕は返した。
そんな僕に1人の係員が何かをお盆に乗せて近寄って来る。
それはしわのひとつもない綺麗な封筒だった。
「これは?」僕は気が抜けた声で問いかける
「先程の珈琲を出した者からです。」
僕はその言葉の理解に時間がかかった。