彼女は荒波のように、僕の身体を、こころを侵して、次の瞬間には消えてしまっていた。まるで波が引いたかのように。 いや違う、鼻に微かなものを感じたとき、僕は悟った。彼女は跡形もなく消て去ったのではない。荒波ではなかったのだ。僕に甘く柔らかな香りを残し、通り過ぎていったんだ。 優しい風だったのだ。